日本アニメ熱風 - インドで起きている"静かなる革命"
- Jet Research Team
- 2024年6月12日
- 読了時間: 6分
日本のアニメが世界的な人気を博しているのは周知の事実です。しかし、いまインド国内でも静かな"アニメ革命"が起きつつあります。過去10年の急速なアニメ浸透を振り返ると、その過程が見えてきます。

1. アニメブームの胎動 - 2000年代
インドにおけるアニメの歴史は、実は意外に古く、1980年代までさかのぼります。しかしながら、いわゆる"アニメブーム"の胎動になったのは2000年代に入ってからでしょう。
1.1 ケーブルTV/衛星放送の普及とアニメチャンネル
2000年代初頭、デジタルケーブルTVや衛星放送の普及が進みました。そこで日本のアニメ番組が部分的に放映され始めたのです。
2002年 - Animaxが北部を中心にスタート
2004年 - Cartoon Networkに「Toonami」ブロックが開設
このように子供向けチャンネルで一部アニメが垣間見られるようになりました。
1.2 DVD市場の台頭
この頃から一般家庭でもDVDプレーヤーが普及し始めます。海賊版の閉ざされた販路ができ、アニメDVDが都市部で流通するようになりました。
2. "クール・ジャパン"到来 - 2010年代
本格的なアニメブームの到来は2010年代に入ってからです。ここから状況が一変し、アニメコンテンツの合法的流通が本格化していきます。
2.1 公式チャンネル放映開始
2010年 - Animaxの一部地域での本放送
2016年 - Animaxの全国放送スタート
2017年 - Sony LIVがアニメ配信チャンネル開設
2.2 動画配信サービスの台頭
Netflix、Amazon Prime Videoといった動画配信サービスの進出と共に、日本アニメのカタログが拡充されていきました。
2016年 - Netflixが本格的にアニメ作品を配信
2018年 - Amazon Prime Videoが日本アニメを強化
2.3 オタク文化の浸透
アニメ人気と相まって、"オタク文化"そのものがインドの若者を中心に浸透していきました。コスプレイベントやアニメコンベンションの開催数が増加し、一大ムーブメントとなっていきます。
3. 統計に見る日本アニメ人気の実態
インド国内でアニメがいかに人気なのか。いくつかの統計データを見てみましょう。
アニメ視聴者数の推移(Saffronstays調査)
2014年: 1,250万人
2020年: 6,000万人
視聴者は5年で5倍近く増加
Netflixトップ10入りアニメ作品(2021年調べ)
東京リベンジャーズ
鬼滅の刃
ゾンビランドサガ
七つの大罪
人気アニメの視聴率(特定エピソード)
鬼滅の刃:37%
ワンピース:27%
このようにインドでも驚異的な人気を誇る日本アニメ作品が現れてきています。
4. 日本アニメ人気の背景と理由
一体なぜインドでアニメがここまで人気化したのでしょうか。いくつかの背景があると考えられます。
4.1 若年層の台頭とアニメへの共感
インドの人口の約65%が35歳未満、35%が18歳未満という極端な"若者社会"です(2018年データ)。この層とアニメの親和性が高かったことは確かでしょう。
アニメの魅力的な設定や美しいビジュアルに共感
夢や冒険へのあこがれや憧れを投影
4.2 ローカライズへの期待
英語が堪能なインド都市部の若者を中心に、英語ローカライズ版での視聴が主流でした。しかし、今後は各地の言語でローカライズされたコンテンツへの需要が高まるものと期待されています。
4.3 オタク文化の適応
従来のオタク文化が、インド独自の解釈で変容しながらも受容されています。例えば、コスプレイベントでは西洋のスーパーヒーロー姿とアニメキャラクター姿が共存するなど、ユニークな光景が見られます。独自のオタク文化が形成されつつあるのです。
5. 日本アニメのインド進出への道のり
一方で、日本のアニメ制作サイドやメーカーも、インド進出に向けた取り組みを本格化させています。
5.1 インドへのローカライズ対応
人気作品の大々的なインドローカライズが進んでいます。
2021年11月、「鬼滅の刃」がヒンディー語、タミル語、テルグ語でローカライズ
続いて「ワンピース」「ドラゴンボール」などの殿堂作品がローカライズ
今後、さらにベンガリ語やマラーティー語など、様々な現地語対応が予想されます。
5.2 海外展開支援策
日本政府による動きも加速してきました。
2022年、クールジャパン機構がインド向けコンテンツ制作支援を発表
2023年、外務省がローカライズプロジェクトへの資金支援を決定
こうした海外展開を後押しする施策が続々登場しています。
5.3 日本企業のインド進出
2010年代後半から、日本の有力アニメ制作会社がインドに次々と進出しています。
2017年 - サンリオがインドのアニメーション制作スタジオに出資
2019年 - フジテレビが『ге』シリーズのインド版制作のためスタジオを設立
2020年 - ソニー子会社が広州に製作拠点を開設、インド人スタッフを多数雇用
2022年 - アニメ最大手のトムス・エンタテインメントがインド現地法人を設立
このように、コストメリットに加えて有望な消費市場としてのポテンシャルを見込み、日本のアニメ業界がインドに本格進出する動きが活発化しています。
6. インド発のアニメも誕生
一方で、インド国内からも新たなアニメーション作品が次々と生まれつつあります。伝統的な神話や民話をアニメ化した作品群が注目を集めています。
2018年公開の『Chakra The Invincible』はスーパーヒーロー物
2022年より『Samurai Jack』や『Ben 10』の制作に携わったブラックスパーク・スタジオがオリジナル長編アニメを手掛ける
このようにインドでも次第にアニメーション製作のレベルが上がってきており、今後は世界でも通用する作品が生まれる可能性があります。
7. アニメ浸透によるビジネスチャンスの広がり
インドにおけるアニメブームの到来は、新たなビジネスチャンスの到来を意味しています。
日本のアニメグッズが流通開始
フィギュア、Tシャツ、雑貨類などの商品化ラッシュ
専門店の出店ラッシュ
アニメ関連グッズを扱う店舗が主要都市で次々オープン
2018年にはインド初の公式アニメグッズ店がデリーに開店
メディア関連ビジネス
ローカライズやイベント運営、オリジナル作品制作など
アニメをきっかけに、多様な関連ビジネスの芽が出始めているのです。
8. 行く手を阻む壁と課題
一方で、アニメブームの進展を阻む壁も存在します。
コンテンツ流通の格差
ローカライズ対応が遅れており、地方や農村部への浸透が遅れている
海賊版の温床化
閉ざされた非公式ルートでの流通が根強く、正規市場の育成が課題
規制の存在
アニメのビジュアルコンテンツに対する規制が一部州で強化
しかし、政府や業界団体による働きかけなどで、こうした課題も徐々に解消されつつあります。
9. 日本アニメは世界的価値を持つソフトパワー
日本のアニメ人気は、いまやグローバルな広がりを見せています。その文化的影響力の大きさから、アニメは日本の重要な"ソフトパワー"の源泉とも言えるでしょう。
インドでも日本アニメが浸透したことで、両国の文化交流が一層促進される好機となっています。今後さらなる相互理解と友好関係の強化が期待できます。
10. まとめ
1990年代後半から徐々に胎動し始めた日本アニメブームは、2010年代に入り一気に加速。いまやインドでも日本アニメは若者を中心に広く親しまれる存在となりました。
ローカライズの遅れや海賊版対策など課題は残されていますが、日本企業の本格進出とインド国内でのアニメ製作レベル向上により、その解決が期待されています。
単なるサブカルチャーを超え、両国の重要な"ソフトパワー"資源となりつつある日本アニメ。インドでのさらなる浸透を通じ、文化交流は新たなステージへと移行していくことでしょう。
Comments